神戸地方裁判所 昭和22年(ワ)368号 判決
第三六八号 原告 森田常介
被告 柴山弘 外一名
第四号 原告 柴山傳三郎
被告 森田常介
一、主 文
原告森田常介の請求を棄却する。
被告柴山傳三郎(第四号事件原告)の請求を棄却する。
訴訟費用中昭和二十二年(ワ)第三六八号事件について生じた分は原告森田常介、昭和二十三年(ワ)第四号事件について生じた分は被告柴山傳三郎の各負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は第三六八号事件について、被告等は原告に対し神戸市生田区元町通一丁目五十八番地の一木造トタン葺平家建店舗用住宅一戸建坪二十二坪九合疊建具付(以下本件家屋と略称する)を明渡し、かつ昭和二十二年十一月十三日から右明渡済まで一ケ月金六百円の割合による金員を支拂え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決ならびに仮執行の宣言を、第四号事件について被告傳三郎の請求を棄却する、訴訟費用は同被告の負担とするとの判決を求め、右第三六八号事件についての請求の原因ならびに第四号事件についての答弁として、「原告はもともと神戸市生田区元町通一丁目五十八番地の一に家屋を所有し永年の間金銭両替、有價証券賣買業を営んでいたが、昭和二十年六月の空襲によつて家屋が燒失し燒跡をそのまゝ放置していたところ、同年十二月頃被告傳三郎が右燒跡地の賃借方を申込んで來たので、この土地は原告が明治の初頃から居住してきた縁りの土地でたやすく他人に貸すことができないといつて一旦断つたのであるが、たつての懇望により原告の方でこゝに家を建てそれを被告傳三郎に賃貸することを同被告と約束し、原告は早速訴外丸尾英一に建築の見積りをさせたところ約六万円かゝるということであつたので、建築に先だち被告に対し家屋賃貸借に対する敷金として金二千五百円、権利金として金三万円の支拂交付方を要求したところ、昭和二十一年一月中旬頃同被告から金三万八百円の交付をうけた。それで直ちに丸尾英一に建築させたところ、同年四月頃総工費七万六千五百円で本件家屋が竣功したのであつて右家屋は原告の單独所有のものである。しかして原告は被告傳三郎に対し、賃料一ケ月金六百円、毎月二十八日その翌月分を持参支拂を受けること、第三者に無断轉貸をしないこと、もしこれに違反したときは即時賃貸借を解除されても異議なきことの約定のもとに本件家屋を賃貸したが同被告は昭和二十二年九月二十五日本件家屋の全部を無断で第三者たる被告会社に轉貸してこれを使用させているので、原告は被告傳三郎に対し昭和二十二年十一月十二日到達の内容証明郵便で本件賃貸借契約を解除する旨意思表示をした。右の次第で被告傳三郎は原告に対抗しうる何等正当な権限がないのに被告会社に本件家屋を使用させているし、被告会社は本件家屋を直接不法占拠しているので、原告は被告等に対し右家屋の明渡しと右契約解除の翌日である昭和二十二年十一月十三日から右明渡済まで賃料額相当の一ケ月金六百円の割合による損害金の支拂を求める爲本訴に及んだのである。」と述べた。<立証省略>
被告傳三郎訴訟代理人は第四号事件につき本件家屋の所有権について被告傳三郎は九万五千七百八十四分の五万三千四百三十四の共有持分を有することを確認する。原告は被告傳三郎に対し本件家屋所有権の共有権の登記手続をせよ、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を、被告等訴訟代理人は第三六八号事件につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、被告傳三郎訴訟代理人は第四号事件の請求原因として、「被告傳三郎は昭和二十一年一月二十日頃原告と共同して原告所有にかゝる神戸市生田区元町通一丁目五十八番地ノ一地上に被告傳三郎が使用する店舗用住宅を建築する契約をなし、訴外丸尾英一に請負せ、同年五月十六日総工費九万五千七百八十円で竣功させたのが本件家屋であつて、右建築費用は原告と被告傳三郎が平等で負担する約束であつたが、結局被告傳三郎は建築工事費四万二百六十四円、電気工事費七千五百円、水道工事費一千四百五十円、煙突およびタイル張費四千二百二十円合計金五万三千四百三十四円を支出し、他は原告が支出負担したのである。從つてその算数上被告傳三郎は本件家屋所有権について九万五千七百八十四分の五万三千四百三十四の共有持分を有していること明かであるのに原告はこれを爭うから、右共有権の確認と原告に対し右共有権の登記手続を求める爲本訴に及んだのである。」と述べ、被告等訴訟代理人は第三六八号事件に対する答弁として、「原告主張事実中被告傳三郎が原告主張のような賃貸借契約を締結し、原告主張の頃から被告会社がこれを使用していること、原告からその主張の日その主張のような契約解除の通知があつたことは認めるが、その他の主張事実は否認する。即ち、本件家屋は前記の通り原告と被告傳三郎の共有のものであつて本件賃貸借は原告の持分についてなされたものである。從つて原告は單独で契約を解除することができない。かりに本件家屋が原告の單独所有のものであるとしても被告会社は被告傳三郎が個人経営していた家具店の営業を合理化する爲その一族の者のみで設立したいわゆる個人会社であつて、右会社経営の実態は被告傳三郎が実権を握り、その個人経営と殆んど変りなく被告会社は本件賃貸借契約上の第三者にあたらないから原告の契約解除は無効である。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
証人丸尾英一の証言(第一回)によつて眞正に作成されたものと認められる乙第一号証、官署作成部分について当事者間に爭なくその他の部分について右証人の証言によつて眞正に作成されたものと認められる乙第二号証、眞正に作成されたことについて当事者間に爭のない乙第四号証および証人森田澄太郎、丸尾英一の証言(各第一、二回)ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、原告は神戸市生田区元町通一丁目五十八番地の一の土地を所有していたところ、昭和二十年の末頃被告傳三郎から店舗用敷地として右土地の賃借方を申込んで來たが、この土地は元町通りに面しており、かつ原告にとつては永年こゝで営業を続けていた縁りの土地のことゝて被告傳三郎の申込に同意しなかつたけれども、原告の方で自らこの地上に被告望み通りの店舗用住宅を建てこれを同被告に賃貸し、被告傳三郎はその代りこれに対し建築費見積額の約半額三万円を原告に提供することを約し、その頃その出捐をなし、原告は被告傳三郎の希望どおりの設計に基き丸尾英一に請負せ昭和二十一年四月頃総工費七万六千五百円を費して本件家屋を建築しその竣工と同時に被告傳三郎に原告主張の約定で賃貸したものであることが認められる。右認定に反する被告傳三郎、被告会社代表者各本人の尋問の結果および証人小畠保吉の証言はたやすく信用できないし、本件家屋の建築は右の特殊事情による特約により爲されたものであるから甲第十二号証は右認定を左右する資料とならぬ。尤も証人丸尾英一の証言(第一回)によつて眞正に作成されたものと認められる甲第二、三、四号証および被告傳三郎本人の供述によつて眞正に作成されたものと認められる甲第七ないし九号証ならびに証人丸尾英一の証言を綜合すると、被告傳三郎は本件家屋に対し店内ならびに店頭を改造したり、電灯、電力、水道工事および建築工事の割増金を支拂つていることが認められるけれども、右店内ならびに店頭の改善は本件家屋の建築工事とは関係なく被告傳三郎が本件家屋をアイスキヤンデーの営業に適するよう造作したものであり、又電灯、電力および水道工事は当初本件家屋の賃貸借を契約する際当事者間の約束で被告傳三郎がその費用を負担してこれらの工事をする約束であつたのでこれによつて同被告がなしたのであり、工事の割増金は本件家屋の建築請負人である丸尾英一が工事の初期において請負金の大部分を受取つて昭和二十一年一月頃から建築にかゝつたところ、間もなく金融緊急措置令等の施行によつて金融事情に変更があり、又その後物價が騰貴したので昭和二十一年十二月末頃請負金に対する二割の追加金を一方的に要求し、その半額を被告傳三郎に請求したので当時すでに本件家屋に居住していた同被告は原告と関係なくその支拂をしたものに過ぎないことは前記乙第四号証および証人森田澄太郎、丸尾英一の証言(各第一、二回)によつて認められるから、結局これら証拠によつても本件家屋が原告の建築にかゝるものであるとの叙上認定を覆すに足る資料とならないし他に右認定を覆すに足る証拠がない。果してしからば本件家屋は原告の建築にかゝる同人の單独所有のものであるといわねばならない。次に本件家屋は被告会社が昭和二十二年九月二十五日からこれを使用していることおよび原告から被告傳三郎に昭和二十二年十一月十二日到達の内容証明郵便で前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示がなされたことは当事者間に爭がない。よつて右契約解除が有効であるかどうかについて判断するに、作成の方式によつて眞正に作成されたものと認める甲第六号証および被告傳三郎、被告会社代表者各本人の供述ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、被告傳三郎は本件家屋を借り受け後こゝで家具商を経営していたところ、その経営を合理化する爲昭和二十二年九月二十五日同被告の息柴山弘と共に同人等が事実上出資し、かつその代表者となつて一族を以つて組織する被告会社を設立したのであるが、右会社経営の実態は被告傳三郎が依然として実権を握り、その個人経営時代と何ら変りがなく、たゞ個人営業を形式上法人組織にしたのに過ぎないことが認められるから、形式的には被告会社が本件家屋を使用していて被告傳三郎から轉使用権を得ているような外観はあるが、実質上からいえば被告傳三郎が本件家屋を依然使用收益しているのであり、被告会社はその賃借権の範囲内での使用を許されているものと認めるのが相当である。特に被告は本件家屋建築には前記のように多額の費用を支出しているのであつて、斯る使用收益の方法も本件賃貸借上当然許されて然るべきであつて、全くの第三者に轉貸又は賃借権を讓渡した場合とはその事情を異にするにかゝわらず、原告が前記のような形式をとらえ、轉貸に名をかりて右賃借権を解除しようとするのは失当で、その効力を発生するに由がない。從つて右解除を前提とする原告の右明渡および損害金の請求、被告の右共有権確認およびその登記手続の請求はいずれもこれを棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石井未一 西川正世 細見友四郎)